目的地は人それぞれ(加筆修正・再掲)

どうも、椿でございます。
縦書き文庫にあった椿静琉のアカウントは消しました。なので、リンクも消そうと思います。
事後報告ですんまそん。
引き続きお引越し作業をします。

  • 電車に揺られながら一組の男女を観察する一人の女を描いた短編小説。
    (当時のまえがき)

因みに作中にある“サッカー日本代表の守護神”はこの人です。
あと作中で主観となっている彼女の脳内CVは『機動戦士ガンダム00』のクリスティナ・シエラ中の人だったり、メインの彼はグラハム・エーカー中の人だったりしていた気がします。

 

 最近、気になることがある。それは今、自分の目の前に立っている二人のことだ。
「そういえば。この前ね、変な人がいたの」
「変な人? 」
「うん。なんか急に話しかけて来たと思ったら、手相見せてくれって」
「手相? なにそれ、新手のナンパ? 」
「分かんないけど、大学で手相の勉強をしてて、研究のために色んな人の手相を見て回ってるんだって」
「手相の勉強って、どんな大学なのよ。で、見せたの?」
「まさか! 大学生に見えなかったし、なんだか気持ち悪かったから怖くて逃げちゃった」
「そうね、逃げて正解だったわ。物騒な世の中だもの、気を付けなきゃダメよ。只でさえカオルは可愛いんだから」
「そんな、大袈裟だよ」
 会話の内容を文章にしたら、大したことのない女友達の会話に聞こえるだろう。けどこの会話に音声を付けたら少しだけ違和感が生じる。
 手相を見せてほしいと言われた方に視線を向けてみる。その容姿は愛らしい美女で、敷居が高そうな高級百貨店の受付嬢とかやってそうな感じ。品の良さが滲み出ている。話し方はちょっとバカっぽい気もしなくはないけど、それは良しとしよう。問題はもう片方だ。
 その人はさっぱりするくらいに短く切り揃えられた黒髪が似合っていた。スポーツカットって言うのかな? 高身長で、ほどよく鍛えられているだろうと推測できる筋肉質な体つきが印象的な男の人なのだ。ちなみに顔はイケメンではなく、男前である。今のサッカー日本代表の守護神みたいな感じである。
ー宅配便とか大工とか、肉体労働系の仕事をしてそうだな。なんかおネエ言葉フル活用してるけど、この低音ボイスは結構好みかも。
 そう、男の人は見た目に反した口調をしているのだ。隣に座ってるサラリーマンのおじさんが変な顔をして二人を見ている。
 別におネエとかに偏見があるわけじゃない。けど、そんな事よりも私が気になっているのは隣にいる美女との関係だったりする。美女は男の腕に細くて雪みたいに白い両腕を絡ませている。
ー恋人なのかな? だとしたらおネエ言葉は罰ゲームかもしれないぞ。男が浮気をしたとか。いやでも罰ゲームだとしたら美女よ、アンタどんだけ怒ってんだよって話になってくるぞ。かれこれ3週間はこの状態はお互いツラいだろ。
男「ユリからメールだわ。リョータが仕事が終わんないから待ち合わせをあと1時間ずらせないかって」
美女「別に構わないけど、その間どうしよっか?」
男「駅前の珈琲ショップでお茶してれば1時間なんてすぐでしょ」
美女「それもそうね」
 ここ最近、帰りの時間帯にこの二人と遭遇する。そして何故だか二人の会話が耳に入る範囲にいる確率が高い。故にとても気になるのである。二人がどういう関係なのかを。
 でもこうやって1人で気になってやきもきしているのは変なんだろうとは思っている。一応ね。
ーただの邪推だしね。でも気になっちゃんだもん。今、自分が恋愛してないから余計に回りに目が行っちゃうっていうか。
 胸の内でぶつぶつと物思いに更けていたら、電車はいつも2人が降りていく駅に到着した。2人はいつも通り電車を降りて、そのまま人混みに紛れ込んでしまう。
 再び走り出した電車に揺られながら、私は降りる間際の美女の表情が脳内で再生した。男に向けた大輪の花のような笑顔はとても幸せそうで、なんだかそれが無性に羨ましかった。気づいたら本音がポロリと溢れ落ちてた。
「恋がしたいなぁ」
 電車はまだ目的地にたどり着かない。


《終われ》