密室~奇人変人たちを閉じ込めてみた~(加筆修正・再掲)

正直、この作品は抹殺したい。
だったら載せるなと言われそうだけど、載せますよ。貴重な“奇人変人シリーズ”の1作なので。
あとこれ、相方の今井さん作品とクロスオーバーしたものだった気がする。違ったら、ごめんなさい。

  • 自作の「奇人変人シリーズ」のキャラクターたちを密室空間に閉じ込めたらどうなるのか? といった実験小説。今回は主に猟奇的少女・薬師丸 繪漣の主観で展開します。(当時のまえがき)

 

 あまり心地が良いとは言えない眠りの中から繪漣は目を覚ました。そのままの状態で辺りを見回してみると、全体的に白い空間だった。
 隣ではまだ眠ってる少女がいた。その姿を見て、繪漣は思わず呟いた。
「眠り姫?」
ー自分はまだ夢の中にいるのだろうか? 
 喩えそうだとしても、呟かずにはいられない美しさがその少女にはあった。
 繪漣の知り合いの中には男女を含めて美しい人間は沢山いる。今まで一番美しい女の子は友人の桜子だと思っていたけれど、どうやらそれは思い違いだったようだ。友人には失礼な話だが、眠り姫は際立って美しかった。
「本物の美少女だ」
 思わず、見惚れてしまっていた。何と視覚に幸せな夢なのだろうかと思った。
「薬師丸、起きた? 」
 そう言って誰かが繪漣の額に触れた。手の感触を感じる方に顔を向けると、そこにはスケッチブックを手にして微笑む少年がいた。
「森村、先輩…? 何でいるんですか?」
「起きて早々にそれかよ」
 そう言ってスケッチブックを手にしている少年・森村貴は笑い、スケッチブックに何かを描き込み始めた。繪漣は今すぐに起き上がりたい気持ちなのに、起き上がることが出来ない。頭がまだ呆けているような感覚があったからだ。
「此処は何処ですか? 」
「さぁ、分からない。気がついたら、僕もこの空間にいたよ」
「他にも、この空間にいる人はいらっしゃるんですか? 」
「僕と君と隣で眠る彼女以外には、肇と綾小路、それから播磨くんがいるよ。ほら」
 そう言って貴が指を指している方に視線を追うと、そこには見慣れた女装男子・綾小路と無駄に騒いでる幼馴染み・羊がいた。もう一人、見慣れない眼鏡をかけた少年がいた。恐らく彼が肇という人物だろう。
 眼鏡の人物は兎も角として、普段から見慣れたメンバーを確認した事で繪漣の中で心の中に安堵が生まれた気がした。けど、そうなると直ぐに隣で眠るお姫さまが気になった。
「隣にいる眠り姫、ご存知ですか? 」
「あぁ、その人? 綾小路のお姉さんで名前は湖瑠璃(こるり)さんだよ」
「この人が綾小路先輩のお姉さん…? 」
 そういわれてみると、確かに綾小路先輩に似てるかもしれないと感ずる一方で、やっぱり異なるなとも思った。
 綾小路の女装はやはり装った姿だ。その姿は美しいと思わずにはいられない美貌ではあるが、やはり本物の女性特有の美しさには叶わないのだと思った。
 口にしたら先輩である綾小路に悪い気がして繪漣は何も言えなかったけれど。
 眠り姫はいまだ眠りの中にいる。
「きれいな人ですね」
「そういう薬師丸だってきれいだよ」
 貴は淡々とスケッチブックに鉛筆を走らせる。そのようなことを今まで言われたことがなかったので、繪漣の中ではいまいちピンと来なかった。どこか馬鹿にされたのではないのかと疑心暗鬼になった。
「お世辞を言っても何も出ませんよ。こんな状況じゃ余計に」
「君は相も変わらず、手厳しいね」
 貴は相変わらずニコニコ笑っている。繪漣にはそれが何だか怖くて不安になった。思わず、向こうで妙に高いテンションを保って密室を探索している幼馴染みに視線を向ける。その視線には救いを求める意味合いが含まれていた。けど、そんな意図を汲んでくれるような男であれば、繪漣が苦労することはなかっただろう。羊は綾小路らと共に部屋の探索に勤しむことに精一杯だった。
 結局、その姿にイラつきを覚えた繪漣は徐に起き上がり、渾身の一撃を羊の顔に与えたのだった。

 一方、とある部屋には二人の人物が以上のやり取りをモニターで観察していた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
 観察していた一人である椎名桜子はもう一人の観察者である兄の涼司に話しかける。話しかけてはいるものの、その視線はモニターへと一転集中されている。
「お兄ちゃん、私つまらないわ。非常につまらない」
「おいおい、桜。こんな非常識なことをしようと言い出したのは君だぜ」
 涼司はそう言いながら、桜子の髪を撫でる。
「だって騒いでるのなんて肇先輩くらいで他の人たちは随分冷静なんだもの」
「播磨をタコ殴りしている自分の友人はスルーか? 」
「あんなの日常茶飯事よ」
 それを聞いて涼司はタコ殴りされている羊に同情した。そして桜子は憮然とした表情でモニターを眺めながら呟いた。
「つまらない。本当につまらないわ」
 そう呟く桜子の視線の先のモニターには無表情で幼馴染みを殴りつける友人とそれを微笑みながら眺める貴の姿があった。

 その後、閉じ込められた彼らは長い眠りから覚めた湖瑠璃の掌に握られていた鍵によって、その謎の密室空間から解放されたのだった。
 けれど、皆が部屋を出る前のことである。湖瑠璃が立ち止まる。
「姉上、どうかしましたか? 」
 綾小路が姉に問いかける。
「今、向こう側から叫び声が聞こえたような」
「叫び声? 」
「そう、まるで悪魔にでも遭遇したかのような感じの」
「何ですか、それ。まだ眠いんですか? 」
 綾小路は姉の手を取りながら、訝しがる。
「そうなのかしら」
「そうですよ。ほら、さっさと出ましょう」
 綾小路は姉の手を取り、密室空間から抜け出した。果たして部屋の向こう側は存在したのか? 仮に向こう側が存在していたら叫び声の主は誰なのか?
答えはきっと何処かにある。

【さっさと終われよ】