毒女(加筆修正・再掲)

引越し作業です。

  • マニュアル文系少年・至(いたる)くんとちょっと病んでる理系少女・園(その)ちゃんのちょっと重い愛の記録。(当時のまえがき)

 

 

「至くん、わたし至くんのことが大好き、愛してるの!」
 園ちゃんは押し倒さんばかりの勢いで至くんに圧し掛かる。
「あ、ありがとう。園ちゃん」
 園ちゃんが紡ぐ愛の言葉の勢いに押され気味の至くんは慌てるように図書室の窓の方に視線を向けたと思ったら、何かを閃いたかのように園ちゃんの手を握った。
「今日は紅葉が綺麗だね」
 そして言い放った一言に自信があったのか、その表情は随分なドヤ顔だった。そして、自信満々だった一言はどうやら園ちゃんのご機嫌を損ねたようだった。
「至くん、わたしはそんな言葉は何一つ要らないわ」
「そ、そうなの? えっと、じゃあ…」
「要らないから。言葉は何一つ要らないの。わたしを愛しているなら行動で示して」
「行動?」
 至くんは凄まじく嫌な予感を覚えた。背筋が凍る。
「これ、昨日の実験で作った新薬。試してみてほしいの」
 そう言って園ちゃんはセーラー服の真っ赤なスカーフを外す。そのまま白衣のポケットに手を突っ込み、ポケットからスカーフ越しにレトロな形をした小瓶を取り出した。その持ち方は指紋を残さないためのようだと至くんは思った。
「新薬? それ何の薬? 」
 至くんの声はかすかに震えていた。園ちゃんは高校生とは思えない妖艶な微笑を浮かべた。その微笑をみて咄嗟に至くんは園ちゃんが魔性の女に見えた。
「犬になる薬よ。これを飲めば誰だって犬になれちゃうの。すごいでしょ? 至くん」
 至くんは命の危機を覚えた。
「そ、それは凄いね。ちなみにそれは実験済みだったりするの? 鼠とか」
「あらやだ、至くん。そんなことしたら鼠が可哀相だわ」
「園ちゃん、試そうとしているオレは可哀相じゃないの?」
「至くんに対しては愛してるっていう感情しか浮かばないわ! それ以外、わたし何も感じない! だから飲んで、至くん」
 二人の会話は成立していなかった。そして園ちゃんは至くんに小瓶を押し付ける。至くんは受け取らざるを得ない状況に追い込まれていた。
 その数分後、某私立高等学校の図書室から謎の叫び声が響き渡るのであった。

 ちなみに読者諸君はどう思われるだろうか?
 園ちゃんが作った薬は果たして、飲んだ人物の姿形を犬に変えてしまう薬なのだろうか? 果たして至くんはどうなったのでしょうか? ここからは秘密。想像は各自、自由にお任せいたします。

《終われ》